『行動経済学の逆襲』を買って少し読んだ

行動経済学の逆襲』 リチャード・セイラー 著 早川書房


行動経済学に初めて興味をもったのは、大学を休学した時だから、8年ぐらい前だろうか。当時リフレ派やなんやでネット界隈で経済学が流行っていた。それで行動経済学というものを知った。しっかりとした教科書を読んだことはない。教科書が存在するのかも知らない。新書でさっと読んだ程度で、プロスペクト理論は名前しか知らない状態だ。

今回買った『行動経済学の逆襲』の内容は以下のように説明されている。第一章から引用。

この本では、行動経済学がどのようにして生まれ、発展してきたのかを、私が見てきた範囲で回想していく。

著者のセイラーは、ダニエル・カーネマン曰く「行動経済学を発明した天才」。目次を見ると、1970年から始まっている。行動経済学は比較的新しい学問のようだ。

「回想していく」というのに惹かれた。学問は歴史的順序で勉強していくと理解が深まる。ある理論が生まれた背景がわかるからだ。これまでに、行動経済学社会心理学認知科学の本は何冊か読んだけど、学問や理論の背景がわからないため、ずっとピントが合わないまま読んでいた。おかげで全く内容を覚えていない。今回の本では、歴史的順序で行動経済学を書いているので、多少頭に残ることを期待している。

1章から4章まで読んだので、良いなと思った文を引用しておく。 著者が初めてカーネマンとトヴェルスキーの論文を読んだ時の様子である。第3章から引用。

論文を読み始めると、まるで大接戦の試合が最後の数分間を迎えたときのように、心臓がバクバクし始めた。論文は30分で読み終えたが、その30分が、私の人生を永遠に変えることになった。

羨ましい。こんな体験してみたい。だから、こうして本(ほんとは論文が良いけど)を読んでいるのだ。

部屋の熱について考えてみた

暑い。9月に入ったがまだ暑い。

うちの台所は特に暑い。 冷房をつけ、台所を冷やそうと思っても、風は届かない。 おかげで夜でもずっと暑い。 台所が暑いのは死活問題なのだ。 換気扇の下に行かねばならぬ。 1回につき5分程度、1時間に2回程度。 空気の温度は、おいしく吸うためには大事なのだ。

朝から昼にかけて直射日光があたる玄関のドアが原因ではなかろうか。 では、なんとかしてドアを冷やしてやれば良い。 簡単なのは雑巾でドアを拭くことだろう。 それによってどれくらい冷えるのか計算してみた。

ドアを冷やす

玄関のドアを、高さ200 cm・幅80 cm・厚さ:0.3 cmのアルミ板だとする。 密度を2.72 kg/cm3 とすれば、重量はおよそ13 kgである。 ドアの温度を1 ℃下げるのに、どれくらいの熱を吸収しなければならないか。 アルミの熱容量を0.9 kJ/kg/Kとすれば、0.9 kJ/kg/K * 13 kg = 11.7 kJ/Kとなる。 おおよそ、12 kJの熱を吸収しなければならない。

ドアは日光によって暖められており、38℃くらいだとする。 できれば28℃くらいまで冷やしたいところだ。 ということは、さっきの10倍で120 kJの熱を奪えば良いことになる。 水を1 g蒸発させると周りから2.3 kJの熱を奪う。 ということは、ドアを冷やすには、120 kJ / 2.3 kJ = 52 g ≒ 52 mLの水を蒸発させれば良い。

水に濡らした雑巾でドアを拭いてやるだけでも、ドアの温度を下げるにはかなりの効果がありそうだ、うことがわかる。

部屋全体の熱収支について

部屋の中の熱収支をたててみよう。 そこから、暑さ対策を考えてみたい。

部屋の熱収支は以下のようになる。

部屋から出た熱 = ある時刻の部屋の熱量 - ある時間がたった部屋の熱量

ある時間たって、もし部屋の熱量が下がっていれば、それは部屋から出て行った熱があった、ということを表す、単純なものだ。 さて、この式を基本に、部屋の家具の配置を考えてみたい。

ISSで収集した微粒子の分析


生命の起源 宇宙空間に痕跡? ISS収集の微粒子分析へ 生命の起源:宇宙空間に痕跡? ISS収集の微粒子分析へ - 毎日新聞


生命の誕生といえば、思い浮かぶイメージが有る。 海水中のタンパク質に太陽の光があたることによって生命が誕生したことを解説する絵だ。 記事中の

地球の生命は、大気や海洋の物質から化学反応でできた有機物が基になったとする説

がそれだろう。

しかし、生命がどのように誕生したかの説は、それだけではないらしい。 もうひとつは、

地球の生命の起源は他の惑星や彗星(すいせい)など宇宙から飛来した−−。

コウノトリが地球にやってきた、というイメージをもったが、研究者たちは違うようだ。 宇宙から微粒子を集め生命の痕跡を探す、この実験は「たんぽぽ実験」というらしい。 たんぽぽの方が国際的なのだろうか。

ものすごく正確な時計 その2


科学技術振興機構プレスリリース

共同発表:超高精度の「光格子時計」で標高差の測定に成功~火山活動の監視など、時計の常識を超える新たな応用に期待~


他の時計の精度

クオーツ以外の時計は何桁の時計なのか先に見てみよう。 検索してみると機械式の時計は日差が10秒程度らしい。 ということは4桁の時計である。 では他の時計、腹時計はどうか。 僕の場合、経験上時間を気にしなければ、一日四食になってしまう。 一日三食が正しいとすれば僕の腹時計は一日で24時間/3=8時間ずれることになる。 したがって、1桁の時計である。ひどい精度だ。

時間を測って空間を測る

超高精度の光格子時計を利用すると標高差が測れるということだった。 ようするに時間を測定することで空間を測定できるということだ。 時空間のつながりを感じる。 が、ここで簡単に驚いてはいけない。 というのも、時間を測って空間を測ること自体は馴染み深いものだからだ。

駅から徒歩3分のアパート、という表現を見たことがあると思う。 これは歩行時間を測ることによって距離を測定(表現)していることに他ならない。 山を登る場合、登山ルートも徒歩何分という表現をする。 案外身近なところで、時間と空間のつながりを利用しているのだ。 学問の名前を言うなら、これは運動学(kinematics)だろうか。

別の方法で、時間を測ることで標高を測定することを考えてみよう。 すぐ思いついたのは振り子である。 標高差があると重力の大きさが変わる。 ということは、標高が低いほうが振り子が早く触れるのではないか。 振り子の往復時間は、おもりの質量には依存しないけれど、実は重力加速度には依存する。 同じ振り子をでも山の上と下で振れる時間が異なるのだ。 実際の計算は読者の練習問題としよう。 学問の名前を言うなら、これは動力学(dynamics)である。

両方とも、運動速度という概念が時間と空間を結びつけている。 速度は日常にありふれている。時間を測って空間を測ることはありふれている。

重力が強いところでは、時間がゆっくり進む

プレスリリースの実験は、先に挙げたものとは全く異なる原理を利用している。 学問の名前を言うならば、一般相対性理論(general theory of relativity)だ。 これはすごい。

「重力が強いところでは、時間がゆっくり進む」という、アインシュタインの相対論の効果を測地技術に応用する

とプレスリリースにある。 標高が低い(重力が強い)ところでは、時間そのものが遅くなる。 振り子のように、おもりに重力という力が働き、その力が標高によって異なるせいで、振れる時間が変わる、という話ではない。 時間そのものが重力の影響を受けるのだ。

非常に残念なことに、僕は相対論の素養がないから、測定の原理について、これ以上のことは分からない。悲しい。 ただ、なんかわからんがすごそうな原理を使ってるんだ、ということが少しでも伝われば嬉しい。

次は、光格子時計のしくみについて書く予定。

幸せについて考えてみた(理屈で)

ポール・ドーラン『幸せな選択・不幸な選択 −行動科学で最高の人生をデザインする−』読了。 お盆休みの最終日、上京の途中(高松駅)でマリンライナーと新幹線のお供に購入。

読み終わってから、ひどい邦題だとおもった。決して題にある「選択」に着目した本ではない。どうして日本語訳の本は原題とズレた題をつけるのだろうか。 原題の"Happiness by Design - Change What You Do, Not How You Think"は良い。『幸せの設計』で良かったのに。

行動科学的・経済学的に「幸せ」を考察した本。 己の信念のみを書いてある自己啓発本よりも、学術的な実験が引用されている分、説得力がある。

幸せとは

著者によれば、

幸せとは快楽とやりがいのバランスがとれた状態が持続すること(p.46)

である。幸福を快楽とやりがいに分けて考えるのは斬新だそうだ。カーネマンの序文にもある(p.8)し、著者自身もそう書いている(p.28)。幸せになるには、快楽かやりがいか、どちらかの最大を目指すのではなく、バランスが重要であるという。しかし、その最適なバランスは人によっても異なるし、同じ人間でも時期によって割合が異なってくる(p.43)。ただし、経済学の概念である「限界収穫逓減の法則」を根拠として、どちらかに偏重しすぎることを警告している(p.43)。ようするに、偏ってしまうと幸福を得る効率が落ちるということだ。

幸福の製造プロセスとは

ある快楽とやりがいのバランスをどう変えていくのか、ひいては幸福をどのように得ていくかのプロセスを、製品製造プロセスになぞらえて「幸福の製造プロセス」と呼んでいる。

幸福の製造プロセスとは、あなたの注意を割り振る(配分する)作業のこと。幸福を生み出すためのインプットは、あなたの注意を奪い合う非常に多くの刺激だ。(p.88)

とある。刺激とは、「例えば、本書、子供、銀行残高、健康状態など」が挙げられている。もっと言うと、日常生活でのあらゆる出来事・五感が感じる事、全てが刺激である。それら刺激に対する「注意」がキーであり、同じインプット(=刺激)があっても、それにどの程度注意を払うかによって、幸福加減が変わってくる。つまり、幸せになるには、

あなたの注意を奪い合うすべての刺激を、できるだけ多くの幸せがもたらされるように処理する方法を追求するわけだ。(p.89)

「幸福の製造プロセス」というモデルを理解することが、この本の山だと思う。 自分は何に注意をしているだろうか、そこから幸福を得られているのだろうかを日々考えて行きたい。 そして変えたほうが良い物は、変えていく。そうして僕は幸福になるのだ。ほんまかいな。

注意の配分について

刺激に対する「注意」を何に配分するかについても考察がある。といっても、よく聞くものが多い。人と関わること、ときにはインターネットを切ること、今に集中すること、習慣を利用すること、環境を変えて自分があることをするように仕向ける、などだ。このあたりは、巷にあふれる自己啓発本と変わらない。そんなに読んだこと無いから知らないけど。ただ大きく違うのは、随所に行動科学の成果が引用されているおり、こういう話題につきものの胡散臭さが無いことだ。

本の後半部分は、イマイチ。

「II.幸福を届ける」 以降は説得力に欠ける。 後書きには、

幸福の製造プロセスを機能させれば、決断、設計、実行の3ステップで注意をうまく配分しなおし、幸せになれるのだ(p.296)

と自信満々に書いてあるが、「決断・設計・実行」が解説されている第5,6,7章はまとまりなく、更に続く第8章(最終章)は具体的な例の考察で終わってしまい、残念だった。

行動科学・心理学系のこの本や、認知科学社会心理学の本を何冊か読んだことがあるけれど、どれも今ひとつピンとこない。実例(実験結果)を豊富に引用しているのは良い。そのものを実験を解説している部分は面白く読める。しかし、そういう本で引用されているような実験結果から、一般的・普遍的な結果(教訓ともいえるような)ことを引き出すのは、かなり無理がある気がする。よく引用されるような心理実験は、実験条件が厳しいこと、どうしてもパーセンテージであらわされるような統計的結果になること、これが難しくしている原因だろう。こういうものから、納得できる一般的な教訓や示唆を得るのは、センスがいりそうだ。哲学者に期待したい(そう思ってデネットの本も持っているが、如何せん厚すぎてなぁ。。。)

大学発ベンチャー表彰2016

科学技術振興機構新エネルギー・産業技術総合開発機構が「大学発ベンチャー表彰2016」の受賞者を決定したとのこと。

「大学発ベンチャー表彰2016」に、大阪大学発のファンペップなど8社 | 大学ジャーナルオンライン

後半の日本ベンチャー学会会長賞、大学発ベンチャー表彰特別賞について、 事業内容が紹介されていないので、ちょっと調べた。

日本ベンチャー学会会長賞 名古屋大学発 ヘルスケアシステムズ

ヘルスケアシステムズの名の通り、健康に関連する企業だ。 ソイチェック・シオチェック・サビチェックなど、 個人でやる郵送検査サービスを提供している。

大学発ベンチャー表彰特別賞 アイキャット

「科学的なインプラント治療の実現を目指」すとあるよう、 歯科系の技術開発会社のよう。 歯科関係者でないと製品の詳細が見られない。。

大学発ベンチャー表彰特別賞 光産業創成大学院大学発 ジーニアルライト

名の通り、ライト=光の医療技術を開発している。 小型の生体センサや、X線を利用しない体の内部を可視化する装置、 レーザーのメスがWebで紹介されている。

光産業創成大学院大学というのは初めて聴いた。 静岡にある私立大学で、浜松ホトニクスの社長が理事長らしい。

コーヒーカップは閉鎖系か?


進化論を「再定義」する物理学者、ジェレミー・イングランドとの対話 http://wired.jp/2016/08/21/interview-jeremy-england/


記事の本筋ではないところではあるが、ツッコミをいれる。 まず閉鎖系の定義は、以下としている。

外界とエネルギーや物質の交換がある「開放系」か、それらが制限されている「閉鎖系(孤立系含む)」のどちらかによる。

「制限」とは、まったくやりとりしない、ということで良いのだろうか。

さて、コーヒーカップに砂糖を入れて(もちろんコーヒーも)、熱平衡に達することを考える。すなわち、

熱いコーヒーに角砂糖を入れたマグを1つの閉鎖系としてとらえた場合、砂糖の濃度が均一になり、コーヒーの温度が室温と同じになった時点で、エントロピーが最大値である「熱力学的平衡」を迎える。

コーヒーが冷める、ということは、環境(部屋の空気)とエネルギーをやり取りしてしまっている。 直前に定義した閉鎖系になっていない。

こういう問題は、断熱壁でおおわれた部屋(これは断熱系かつ閉鎖系)全体のエントロピー変化を考えなければならない。その場合は、コーヒーの温度は下がり、部屋の温度は上がる。そして、コーヒーを含めた部屋全体のエントロピーが最大となるように、コーヒーの温度・部屋の温度・砂糖の濃度(分布)が変化する、というのが正しい(と思うのだけど…)。コーヒーのエントロピーは大きくもなりうるし小さくもなりうる。 小さくなった場合は、コーヒー以外の部屋のエントロピーが上昇した分と相殺される。

記事の本筋については、

イングランドによると、エネルギーの散逸に最も効率がいいのは、他でもない自分の複製を作ることだからだ。

というのが気になった。 如何せんプリゴジン散逸構造をまったく知らないので、ピンと来ない。 が、変わったことを言ってそうでワクワクする。理解したい。